(1)百年の孤独

 ラテンアメリカの文学が面白い、という話がよく出ていたのは70年代半ば以降だったかと思います。ガルシア・マルケス、バルガス・リョサ、マヌエル・プイグ、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、カルペンティエール、などなどの錚々たる名前が挙がり、こちらはラテンアメリカとひとくくりに考えていても、それぞれ別々の国の作家たちであることなど、しばらく読み込んでからようやく分かってきた次第・・・それぞれのラテンアメリカの国々の歴史や文化について、小説を通して興味を持ち、簡単に調べながら読んだりしていた大学時代でした。小説を読むのにそんなことは必要ない、と、先輩には注意されたけれども、自分の興味の傾向として、どうしても作品の背景を知りたくなってしまうというサガのようなものがありました。

 マジック・リアリズム、という言葉を知ったのもこの頃。大雑把に考えては専門家に眉を顰められると知りつつ、素人の浅はかさで言ってしまえば、ラテンアメリカ文学と呼ばれる小説群には、見たところ確かに共通点がありました。・・・イメージの豊穣さ、時空の広がりと自由な変形、民話・神話的なストーリーテリング、といったところ。のどかな田園、太古の神話的宇宙と高度に近代化された都市のコンクリートジャングルが同居し、空間と時間が入れ替わったり、入れ子構造になっていたりと、奇怪な展開の物語に目を見張らされました。強烈でありながら甘く、猥雑でありながらピュアでさえある、土俗宗教と近代的思考の入り混じったようなごった煮の感覚。これが意外に、日本人のセンスと一見遠いようでありながら、響きあう懐かしさを含んでいるところが面白い。

 文章からも伝わる強烈な色彩感覚も、複雑怪奇なフォルムのセンスも、過剰さが一般には日本人的感覚では嫌悪感を引き起こすはずなのに、不安よりもまずほっと安心するような、受容性を感じさせたのは、そこここに漂うぽっかりとしたゆとり感やユーモアのせいだったのでしょうか。そう、言葉が有り余るほど過剰に噴出してくるようなのに、どこか抜けていて甘い。ロジカルな構成ではなく民話や神話のような落ちがついていたりするストーリーは、インパクトは強くとも、母が子供の頃寝床で語ってくれた昔話に近くて、眠気を誘う安心感があるのでした。それとも、こんなことを感じていたのは私だけだったでしょうか。・・・そんなラテンアメリカ文学の代表として覚えているのが、『百年の孤独』をはじめとするガルシア・マルケスの小説群なのでした。









 



            

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