(1)重力と恩寵

 女性の伝記ものの映画というと、ずっとだいたい女優、歌手、女王や王妃や王女、などなどといった職業?がほとんどで、時々作家や画家のような人も扱われるのですが、たとえばキュリー夫人のような科学者や、シモーヌ・ヴェイユのような哲学者といった女性は、少なくとも今まで、子供向け伝記など教育分野では有名でも、映画やドラマではまず主役になることはなかったような気がします。

 それは結局、まずビジュアル的に地味になりすぎること、また、たとえば科学者はずっと殺風景な研究室にこもって、一日中白衣を着て実験に没入したりしているので、生活は家と研究室の行ったり来たり、見た目面白い事件とかがほとんどない、まあ、人間として品行方正、ようするに絵的な面白みがないから、というのがあるでしょう。哲学者に関しても、職業としては学校の先生だったり、それ以外は自室で思索にふけったり、ストイックな生活をしているので、また、俗世間にあまり関心がないのでファッションなどにも無関心だし、見た目無味乾燥なわけです。結局言ってしまえば色気も素っ気もないので、男性の恋愛の対象にもまずなりにくいし、ビジュアルの華やかさに欠け、多数派の女性の感覚からも離れているので感情移入がしにくいわけですね。

 シモーヌ・ヴェイユはフランスのユダヤ人家庭に生まれ、兄は天才的数学者のアンドレ・ヴェイユでした。数学の分野で「ヴェイユの法則」というのがありますが、これはアンドレ・ヴェイユの名前から来ています。シモーヌ・ヴェイユはむしろ美人といえる顔立ちでしたが、自らの意志でストイックを貫いていたので、見た目には関心がなく、飾り気が全くなくて、修道女のような雰囲気でした。彼女の生涯にはドラマもけっこうあったと思いますが、少なくとも浮いた話が全然ないので、恋愛という要素が欠けた女性の伝記ものは、やはり一般受けするビジュアル化・ストーリー化は難しいということでしょう。



            

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